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「だまって信じろ」では通用しない

きょう(2006年1月6日)の全国紙各紙朝刊は、横田めぐみさんは辛光洙という北朝鮮の工作員に拉致されたと、拉致被害者の曽我ひとみさんが話していた、と伝えています。

横田さんを拉致した人物が具体的に浮かんだのはこれが初めてとのことで、ビッグニュースといえるでしょう。読売が1面トップと社会面トップで展開し、朝日は社会面トップ、毎日が第2社会面に4段見出しで扱っているのも、わかる気がします。

このように力の入った記事なのですが、その報道ぶりには、2つほど気になる点があります。

1つ目は、3紙とも「曽我さんが話した」と書いているのに、曽我さんに直接確認を取ったり、コメントを求めたりした形跡が、どの新聞にもないことです。それでいて、3紙とも、曽我さんが工作員について話したのは「事実」だと断定して記事を書いているのです。

当事者に当たらずとも、複数の証言や証拠を得て、事実認定することは可能でしょう。しかし、きょうの各紙の記事を読む限り、そのようなことがあったようには思えません。もしかしたら、曽我さんに取材を試みたものの、応じてもらえなかったのかもしれません。ただ、もしそうであったのなら、そう書くべきです。読者にしてみれば、なんで当事者にちゃんと確認を取らないの? と不思議に感じるばかりです。

2点目は、ニュースソースについてです。毎日は〈曽我さんが警察当局の事情聴取などに話した。曽我さんのこれまでの話によると……〉と、警察を情報源としているような書き方をしています(ただ、本当の情報源を隠すためにこう書いている可能性は大)。一方、読売は〈関係者の話で明らかになった〉と、「関係者」という非常にあいまいな肩書きの人物をニュースソースにしています。これはもう、誰とでも解釈できるような表現で、情報源をまったく書かないのとほとんど変わりありません。

そして、本当に情報源をまったく書いていないのが朝日です。記事では、〈(曽我さんが)めぐみさんの両親ら、関係者に話していたことがわかった〉と書くだけで、どこからの情報でそれがわかったのか、全然触れていません。これは、極めて問題です。

今回、各紙が同じタイミングで記事を掲載していることから、各社そろって同じニュースソースから情報を得たことは恐らく間違いないでしょう。何らかの事情で、その人の氏名や肩書きを出せないということは、あると思いますし、今回はそういうケースなのでしょう。しかし、その場合であっても、読者がある程度納得できる書き方をすべきです。

「これが事実だ」と言っておきながら、その拠り所をまったく示さなかったり、「関係者」といった極度にいいかげんな肩書きを使ったりするのは、読者をあまりにバカにしています。「我々が書くことをだまって受け止めろ」といった、新聞側の勘違いな感覚も透けてみえます。

記事に出てくる当事者に当たる。ニュースソースはちゃんと明示する。それらができないときには、できない理由を読者に説明する。ニュースの大小や政治性の強弱に関わらず、新聞は読者の側に立ってこれらの基本を実行すべきです。
by tmreij | 2006-01-06 23:59 | 本紙


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