神奈川県横須賀市で女性が殺害される事件があり、容疑者が浮上しました。きょう(2006年1月5日)の読売新聞夕刊は、〈米兵、犯行認める供述〉〈神奈川県警 身柄引き渡し要求へ〉という見出しの記事を、社会面に掲載しています。
第1段落は、次のようになっています。
〈神奈川県横須賀市のビルの階段踊り場で3日、同市日の出町、派遣社員佐藤好重さん(56)が殺害されていた事件で、在日米海軍横須賀基地を母港とする空母「キティホーク」の水兵の男が、米軍の捜査当局に、佐藤さんの殺害を認める供述をしていることが5日、わかった〉
引っかかるのは、最後の〈わかった〉です。
〈わかった〉のはいったい誰なのでしょうか。読売新聞なのでしょうか。警察なのでしょうか。それとも別の誰かなのでしょうか。
この「わかった記事」は多くの新聞でみられますし、主語の省略も多々みられます。しかし、文章としてあいまいですし、読者に対して不親切です。
さらに、〈わかった〉経緯が明らかにされていない点も問題です。今回の記事からは、神様のような存在が天上から事の次第を眺めているような印象を受けます。
記事には後段で、〈県警は、米軍に対し、事件当時の横須賀基地の出入り状況などを調べるよう依頼していた〉という記述が出てきます。この文章からは、県警の依頼を受けた米軍が、米兵の犯行供述について県警に通知し、読売新聞が県警からそのことを知った——と推測できます。もしこの推測どおりであれば、記事でちゃんと、米軍の誰からいつどんな連絡が県警にあったのかを書くべきです。変に遠回しな書き方をする必要はないはずです。
今回〈わかった〉とされている内容は、特定の人物を殺人事件と結びつけるような深刻なものです。そうした最大級の個人非難を、新聞がその出どころを明確にせずに記事にするのは無責任です。報道倫理の重大な違反だともいえるのではないでしょうか。
今回のニュースは、朝日、毎日両紙の夕刊も、社会面で記事にしています。朝日も読売同様、〈在日米海軍の調べに対し、横須賀基地所属の男性米兵が殺害を認める供述をしていることが5日、わかった〉と、あいまいな書き方をしています。ただ、同じ段落で、〈県警によると、米兵は横須賀基地配備の空母キティホーク所属の乗組員という〉と続けている分、県警が情報源であることがわかる書き方になっています。
毎日は、〈同県警横須賀署特捜本部の調べで、米空母「キティホーク」乗組員の男が米軍側に身柄を確保され、関与を認める供述をしていることが分かった〉と、県警からの情報をもとに記事を書いていることがわかる書き方をしています。これだって不十分ですが、3紙の中ではまともだといえるでしょう。