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不安になるだけの米牛肉輸入再開記事

きょう(2005年12月7日)の朝日新聞朝刊は、米国産牛肉の輸入再開を、政府が12日に決定する方針だと1面で伝えています。

輸入禁止の原因となっていた牛海綿状脳症(BSE)汚染については、内閣府食品安全委員会が〈「日本の牛肉とのリスクの差が非常に小さい」〉との結論を出したとのこと。そして、このままいけば、〈クリスマス前後には、小売店や外食産業の一部を通じて日本の消費者に米国産牛肉が届くようになる見通しだ〉と報じています。

このニュースについては、朝刊段階では、毎日は1面にちょこっとだけ記事を載せているだけ(あわてて突っ込んだ?)、読売にはまったく記事がないことからみると、実質的に朝日の特ダネなのでしょう。1面に加え、経済面、生活面にも関連記事を載せるなど、朝日は力の入れた報道をしています。

ただ、それらの記事を読んでも、大丈夫かよ、という不安が高まるばかりです。もうちょっとこう、消費者の身になって、厳しく政府の判断を検証したり、強く業界に対策を求めたりし、消費者の安全が高まるような内容の記事を出してほしいという気持ちになります。

不安感や怒りをいちだんと盛り上げてくれるのは、経済面の〈対米配慮の「政治決着」 消費者への説明後回し〉という見出しの解説記事です。そこでは、〈「拙速」にも見える政府の方針の裏には、早期の輸入再開を強く求めてきた米国への配慮がある〉と説明しています。

国民の安全より米国への配慮を優先しているというのですから、ひどい話です。政府はそんなんじゃだめだ、とビシッと言ってくるんでしょうな、と期待しながら読み進めたのですが、記事は最後に、〈消費者の不安を解消する努力を政府が怠って「政治決着」に走れば、こんどは国民から批判を浴びることになる〉と論評するだけ。非常に日和見主義的に、ゆるくクギを刺す程度で終わっています。

一方、生活面の記事〈米国産牛肉 本当に安全?〉は、生活面らしく、消費者として気になることについて、Q&A形式でまとめています。そのひとつに、以下のようなものがあります。

〈Q 消費者はどのように受け止めればいいのか〉〈A 専門家は最終的な判断は、消費者自身が決めることだとしている。ただ、それには現在は義務化されていない加工食品などでも原産地表示をきちんとし、大作の監視状況についても随時発表するなど、消費者が選択できる情報公開が徹底されないと、安心にはつながらないだろう〉

質問と答えがいまいちかみ合っていませんが、それはまあいいとして、答えの部分に書かれていることは、そのとおりでしょう。米国産牛肉は怖くて買わないという人がいる一方、リスクを承知で安い米国産牛肉を買う人もいるはずで、消費者の自由な選択に任されるべきです。ただ、選択をするうえで、どこの国の牛肉なのかという情報は不可欠であり、精肉であろうが加工食品であろうが、原産地の情報は必ず提供されるべきでしょう。

しかし、この日の朝日は、〈情報公開が徹底されないと、安心にはつながらないだろう〉といった、のんびりした見解を示すだけです。クリスマスには店頭に並ぶという状況を前にして、新聞が本当に消費者の立場に立つのであれば、原産地表示は100%されなければならず、表示しない業者は排除されるべきだ、ぐらいの強い意見を発信すべきではないでしょうか。

もしかしたら、消費者の思いに偏ることなく、政府への理解や、業界への配慮もにじませて、紙面としてバランスを取ろうとしているのかもしれません。でも、こんなケースでは、すっかり消費者の側に立って、政府や業界を突き上げることこそが、新聞の役目だと思います。
by tmreij | 2005-12-07 23:57 | 本紙


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