民主党の露骨な演出に手を貸すべきではない

衆議院千葉7区の補欠選挙で、小泉首相と民主党の小沢代表が、街頭演説に立ちました。きょう(2006年4月16日)の朝日新聞朝刊は、1面で両党首の演説姿の写真を並べて、この演説について報じています。

この2人の写真や写真説明、記事本文などをみると、ちょっと民主党(の下手な作戦)に甘過ぎない? という印象を覚えます。

1面写真の右側は小泉氏です。マイク片手に、候補者のものと思われる白手袋をはめた手をつかみ上げています。写真には、〈応援演説に訪れた小泉首相〉という説明がついています。

左側の小沢氏の写真も、マイクを手に演説しているという点では小泉氏と同じです。ただ、小泉氏の写真が上半身だけなのに対し、小沢氏は全身が写っている点で大きく違っています。2枚の写真は隣り合っているだけに、ぱっと見ただけで妙な感じがします。

なぜこんなことになっているのでしょう。答えは、小沢氏の足もとにあるように思います。

小沢氏は、プラスチック製のビールケースらしきものを2段重ねにした「お立ち台」に乗って、演説しました。写真記者はこのことを面白いと思い、台まで入るように撮影したのだと思います(そのため、小泉氏の写真よりも1段分たて長になっています)。写真説明も、〈即席の台に上って演説する民主党の小沢代表〉と、台について強調しています。

演説台つきの選挙カーや、移動可能なお立ち台を用意する資金がない。この際、台として使えるものならなんでもいい。そんな事情でビールケースを組み上げたというのなら、まだ注目に値するかと思います。しかし、民主党がそこまで金に困っている政党かというと、そんなことはないはずです。

ビールケースのお立ち台は、「庶民的」「反金権体質」「なりふり構わないほど真剣」などのイメージを植え付けようとした民主党の、計算された、あまり上手とはいえない演出でしょう。ビールケースには、「政権を代えれば、年金が変わる」「まずは、ムダづかいストップ」というメッセージや党名、ロゴマークが入ったステッカーが、べたべたと貼られています。近所の店からちょっと拝借してきたのではなく、民主党があらかじめ準備した「道具」であることは明らかです。

そんな、クサくていやらしくて時代遅れの演出に、新聞がわざわざ協力してあげることはないはずです。それなのに、この日の朝日は、1面の記事でも、〈対する小沢代表。午後3時ごろ、野田市周辺の田畑に囲まれた集落でビールケースに乗った〉と、ビールケースを売り出しています。

民主党のクサい演出を笑う、という狙いで取り上げたとしたら、意味はあるでしょう。でも、今回の写真を見て、民主党って白々しいことやるよなあ、と受け止める読者より、民主党のほうが素朴で純粋かも、という印象をもつ読者のほうが、もしかしたら多いのではないかという気もします。その意味では、朝日としてはチクリとやったつもりだったとしても、あまりうまくはいっていないように思います。

自民党と比べて、民主党のほうがより「庶民的」な政党だといえる部分はあるでしょう。その部分を、民主党が精いっぱい売り込もうと努力するのは結構ですし、もっともなことだと思います。

しかし、今回のように、あまりに見え透いた幼稚な演出にまで、新聞がお付き合いする意味はありません。みようによっては、新聞も、民主党の意図に素直に引っかかっている感じもします。へんな演出に対しては、無視するか、ちゃんと笑ってあげるかの、どちらかにすべきだと思います。
[PR]
# by tmreij | 2006-04-17 00:07 | 本紙

なぜ朝日新聞に取材しないのか

将棋の「名人戦」(毎日新聞主催)をめぐって、日本将棋連盟が毎日新聞との契約を解消し、主催者を朝日新聞に変える動きをみせています。きょう(2006年4月13日)の毎日新聞朝刊は、社会面でこの話題を大きく伝えています。

〈私たちにとりまさに寝耳に水でした〉という毎日が、〈なぜ契約解消なのでしょう?〉と詰め寄りたくなる気持ちは想像できます。また、中原誠・将棋連盟副会長から〈朝日新聞が高額の契約金や協力金を示し、名人戦を朝日新聞にもってくるよう強く要請しているから〉という説明を受け、同連盟と朝日新聞に怒りをあらわにしたくなる気持ちも、それなりに理解できます。

しかし、この日の毎日は、読者の存在など気にしていないかのような報じ方をしているのが気になります。

毎日は、〈名人戦 朝日へ移管提案〉という見出しの記事に加え、〈「毎日の名人戦」守ります〉という見出しをつけた東京本社編集局長名による長行の声明記事を掲載(この日の毎日の第2社会面は、前日に勝負がついた今期の名人戦第1局に関する記事と合わせると、紙面の約3分の2が名人戦の話題で埋まっていて、さながら「将棋面」です)。ここまで紙面を割くことなのか、という気はするのですが、まあそれはいいとします。

それよりも問題なのは、記事では朝日を批判するだけで、朝日の動きや見解については、間接情報しか書かず、直接取材をしていないように見受けられることです。

名人戦は過去に、主催者が毎日から朝日に変わり、また毎日に戻ったという歴史があるようです。この、朝日から毎日に再変更された経緯について、この日の記事は、〈毎日はきちんと手順を踏んだのです〉と説明。暗に、今回の朝日の「寝耳に水」のやり口を、汚いと非難しています。

そうしておきながら、ではいったい朝日が具体的にどんな動きをみせ、どんな考えをもっているのかに関しては、〈連盟によると……〉〈中原氏によれば……〉〈(理事会の)出席者によると……〉などと、伝聞情報を連ねるばかりです。朝日を情報源としているデータは、まったく書いてありません。

毎日はなぜ直接、朝日の動きや言い分について取材し、書かないのでしょうか。

ひとつ考えられるのは、メンツです。毎日の編集局長は、〈朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません〉と書いています。この文章からは、こっちから問い合わせをする前に、朝日から説明があって当然だろう、それがない限り、取材も含めて、こっちから今回のことについて質問なんかできるか、という気持ちが感じ取れます。

この気持ちは、一般的な人付き合いや会社間のやりとりでは、もっともなのかもしれません。しかし新聞は、不特定多数の読者に向けて情報を発信している点で、一般企業とは大きく違うはずです。読者にしてみれば、朝日側の説明や言い分を聞きたいと思うのは当然でしょう。将棋連盟や中原副会長の話の引用ではなく、直に朝日に取材してその答えを書いてくれよ、という気になるのではないでしょうか。

メンツを張ることと、読者によりよい記事を届けることのどちらかを選ぶことになった場合、新聞は常に後者を選ぶべきです。今回の記事からは、読者よりメンツを優先しているような印象を覚えます。

 ———

この日の朝日新聞朝刊は、同じく第2社会面で〈名人戦 契約解消へ〉という見出しの記事を載せ、将棋連盟側が赤字対策として、〈昨年夏、朝日新聞社に契約移管を打診〉してきたと書いています。朝日側が主催者の移管を言い出したとする毎日の記事とは食い違っているわけですが、このへんの事実関係については、朝日も毎日もちゃんと事実関係を詰めてほしいです。どっちも新聞なんですから。
[PR]
# by tmreij | 2006-04-14 00:25 | 本紙

記録の提供を受けながら、記事にしなかったのはなぜ?

きょう(2006年4月12日)の全国紙各紙の夕刊は、高松塚古墳の壁画を文化庁の職員が誤って傷つけ、公表せずに補修していたことがわかった、と一斉に報じています。

文化庁が損傷の事実を公表していなかったため、各紙ともこの点を非難する内容になっています。もっとも力を込めているのが毎日で、1面と社会面で記事を展開。見出しにも、〈隠ぺい〉〈ひそかに修復〉〈強い不信感〉というキツイ言葉を並べています。

その毎日の記事には、いったいどういうこと? と疑問に思う記述が出てきます。疑問に思うといっても、文化庁に対してではなく、新聞に対してです。以下に、その記述を引用します。

〈同庁(文化庁)によると、壁画の損傷隠しの事実は石室内の記録書類に写真入りで記載していた。昨年夏、求めに応じて複数の新聞社だけに記録を提供したというが、積極的な発表はしなかった〉

なんと、損傷について情報を得ていた新聞が、すでに去年の夏の時点で、複数あったというのです。

新聞が文化庁に、〈「なぜ黙っていた」〉(毎日、社会面見出し)と怒りをぶつけたくなるのと同様、〈複数の新聞社〉の読者も、「なぜ報じない」と新聞に怒りをぶつけたくなるような話ではないでしょうか。

毎日の記事は、〈複数の新聞社〉がどこかということや、なぜ記事にならなかったのかといったことについては書いていません。朝日と読売はそもそも、複数の新聞が約1年前に情報を得ていたことについては、まったく触れていません。ですので、3紙を読む限り、これ以上のことはわかりません。

でもいったい、記録の提供を受けた〈複数の新聞社〉は、何をしていたのでしょうか。

考えられるのは、(1)提供された記録から損傷の事実を読み取れなかった(2)損傷の事実に気づいたが、ニュース価値がないと判断した(3)損傷の事実に気づき、ニュース価値もあると判断したが、何らかの理由で記事にしないことに決めた——といったことでしょう。

どの場合であっても、新聞にとっては深く恥じ入るべきことだと思います。もし(3)が理由で、しかも背景に政治的な配慮でもあれば、それ自体が大ニュースになり得るような話です。

新聞社の要請を受けて記録を提供していたからといって、文化庁が国宝の損傷という大きな出来事を進んで公表しなかったことが正当化されるわけではありません。やはり、損傷が起きた02年1月の時点で、文化庁はできるだけすみやかに発表すべきだったと思います。

ただ、複数の新聞が損傷についての情報提供を受けながら、どの新聞も記事にしていないというのは、このブログの筆者にとっては、国宝の損傷よりショッキングな話です。今回の毎日の記事を読んで、同じように、肝心のニュースより、新聞の体たらくに気を取られた人も少なくなかったのではないでしょうか。

どの業界にも「武士の情」のようなかばい合いがあるように、新聞業界にも他紙のミスや欠点をあえてえぐり出さない文化があります(もちろん問題によりますが)。ですので、今回書いてきたようなことも、うやむやのまま終わってしまう可能性が高いと思います。でも、毎日は、ここまで書いたのですから、読者に疑問を投げつけたままで放置せず、メディア欄などで、記事にならなかった経緯をフォローしてほしいと思います。

 ———

記録の提供を受けた〈複数の新聞社〉は損傷についてちゃんと記事にしたものの、それに全国紙がまったく気づかなかった、という可能性もあります。その場合、今回書いてきたことは、あまり意味をなさなくなります。すみません。ただ、そうなると今度は、全国紙(をはじめ主要な新聞)は何やってたんだ、ということになりますが。
[PR]
# by tmreij | 2006-04-12 22:50 | 本紙