2006年 03月 15日 ( 1 )

取材源の秘匿は大事、でも記事の検証も大事

読売新聞の記事をめぐって、東京地裁が同紙記者に対し、取材源の身元(国税職員かどうか)を明かすよう命じました。きょう(2006年3月15日)の全国紙朝刊は、このことを各紙1面で取り上げ、社会面にも解説記事を掲載するなど、力を込めた報道をしています。

東京地裁の理屈は、もし情報源が国税職員であれば、その職員は国家公務員法違反をしたことになるし、情報源を明かさない記者も、犯罪行為の隠ぺいに加担したことになる、というものです。記者がおいそれと情報源を明かすようであれば、だれも取材に協力しなくなることが考えられますが、藤下健裁判官は、〈それは公務員の守秘義務違反がなくなることを意味するのだから、法秩序の観点からむしろ歓迎すべきだろう」〉(読売社会面)と言い放ったようです。

このあぜんとする判断に、当事者の読売はもちろん、それ以外の新聞も強い非難を浴びせています。朝日は〈東京地裁決定に沿えば、そのような(官庁側が出す情報以外は市民に届かない)社会になりかねない〉と書き、毎日も〈国民の知る権利を否定しかねない結論を導いた〉と批判。そして読売は〈仮に、公権力が都合の悪い情報も包み隠さず公表するとしたら、決定の論理も成り立つ余地があるかもしれない。だが残念ながら、そんな社会は実現していない。東京地裁の現実離れした判断は、ただちに見直されるべきだ〉と強硬に主張しています。

まったくこれらの意見どおりだと思います。各紙がそれぞれに、今回の決定に「ふざけんな」と大声をあげたのも、当然といえば当然のことではありますが、よかったと思います。

それはそうと、3紙の記事に共通して欠けている情報があるのが気になります。なにかというと、今回の決定の引き金となった読売の記事が、どんな内容で、どれほど正確なものか、ということです。

読売は1997年10月、米国の健康食品会社が「所得隠し」をしたとする記事を掲載。これを受け、この会社は、〈「米政府が情報を日本の国税当局に流したことから、誤った課税処分が報道される結果となり、信用が失墜した」として、米政府を相手取り、アリゾナ連邦地裁に提訴〉(読売1面)したというのが、今回の背景です。

読者としては、読売の記事にはどんなことが書いてあったのか気になるところです。ところがきょうの読売は、〈問題となったのは、同社(健康食品会社)に対する日米両税務当局の所得隠しに関する課税処分について報じた1997年10月10日の読売新聞記事〉と書くだけで、それ以上は触れていません。他紙も同様です。

そこでちょっと調べてみると、該当の記事には以下のような記述が出ています。〈五年間に約七十七億円の法人所得を隠していたことが、日米両国の税務当局による同時税務調査で分かり……〉〈隠し所得は米国の関連会社に送金され、同社の役員が私的に使っていたものと見られ、米国内国歳入庁(IRS)でも追徴課税した模様だ〉〈関係者によると……仕入れ価格を実際の価格より大幅に高く購入したように帳簿に虚偽の記載をして……〉

これらの正誤については、裁判が進行中なので、完全に決着はついていないでしょう。ただ、健康食品会社は〈「誤った課税処分が報道される結果となり」〉と主張しているわけですから、間違った情報が含まれている可能性はあります。

仮に、記事の内容に間違いがあったとしたらどうでしょうか。新聞にしてみれば、当時、情報源から得た情報を記事にしたのであって、意図的に間違ったわけではないのだから、正当な報道だったと主張するでしょう。ただ問題なのは、新聞に特別な意図はなくても、情報源はなんらかの意図をもってわざと誤った情報を記者に伝え、世論をミスリードしようとしたとも考えられることです。

もしそんなことがあったとすると、今回の騒動の全体像や印象はだいぶん違ってこないでしょうか。目的をもって記者にガセネタをつかませたとなれば、その情報源はけしからんということになるでしょうし、秘匿に値するのかという疑問もわくでしょう。最近の永田議員(民主)偽メール問題と同じです。

このように、読売の元記事がどんな情報を含んでいて、それがどれだけ正確(不正確)なのかというのは、読者が今回の問題を考えるうえで、大事なデータのはずです。それなのに、どの新聞にもそうしたデータがありません。これでは、元記事の内容は実はデタラメだったとか、数字がかなり膨らまされていたとか、新聞にとって都合の悪いことを隠そうとしているのではないかと勘ぐりたくもなります。

取材源の秘匿は大事なんだと新聞が主張することは、とても大切なことだと思います。ただ、そうした主張は、書かれた記事に関する厳しい検証をともなってこそ、説得力をもつはずです。たとえ今回のように裁判が進行中のケースでも、できる範囲で記事を検証し、その結果も一緒に読者に伝えることが大事だと思います。
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by tmreij | 2006-03-15 23:50 | 本紙