2006年 01月 29日 ( 1 )

新聞はホリエモンを持ち上げたか(2)

(前日の原稿「新聞はホリエモンを持ち上げたか(1)」のつづきです)

新聞には、人々の関心事について伝える役割があります。近鉄とフジテレビの買収を仕掛け、ヒルズ族を象徴する社長としても注目度が高かったホリエモンが、果たしてどんな選挙活動をするのだろうかという興味は、かなり高かったといえるでしょう。その意味では、読売など新聞が堀江社長(当時)に関する記事を載せたからといって、「持ち上げていた」というのは当たらないと思いますし、けしからんということもできないと思います。

着目すべきは、記事として取り上げた頻度と、その内容でしょう。ただ、記事を載せた回数が多過ぎたかどうかの判断は、そう簡単ではありません。連日、堀江社長の写真や記事が出ていたというのなら明らかに異常だといえるでしょうが、来る日も来る日も堀江社長の記事が載っていたわけではありませんでした。「ちょっと出過ぎじゃない」と感じるぐらいであれば、それなりの理由があったからだとも考えられます。読者に伝えるだけの価値ある話題がたくさんある場合、記事がたくさん出るのは仕方ありません。

となると、内容が重要になってきます。しかしこれも、何が価値ある話題で何がそうでないか、どんな取り上げ方が適当でどんなのがそうでないか、などは人によって感じ方が違うので、なかなか難しい判断となります。

以上のことをふまえると、記事の検証というのはかなり困難です。とはいえ、投票用紙に「ドラえもん」と書いても無効だと伝える記事(8月25日)は、やっぱりヘンではないでしょうか。「ドラえもん」と書く人がたくさん出ることが予想されるのならまだ意味があるでしょうが、そんな状況ではなかったはずです。また、どぶ板の選挙活動を伝える記事で、堀江社長が尾道ラーメンを食べたことを報告する(8月23日)のもいかがでしょうか。ラーメン屋で客と写真を撮ったりするのは「どぶ板」とは違います。堀江社長が何を食べたかより、どぶ板を踏みながら何を訴えたかのほうが、有権者にとってはよほど有益な情報ではないでしょうか。

この2つの記事だけみても、読売の〈確かに、「話題になりさえすればよい」という、テレビなど一部メディアに問題はあった〉という社説は、あまりに無責任だといえないでしょうか。読売新聞だって「話題になりさえすればよい」と思える取り上げ方をしてきたはずです。それなのに、自らの報道を振り返って反省してみようといった姿勢は、ちっとも感じられません。

他方、朝日新聞では、1月26日付朝刊の1面コラム「天声人語」が、ホリエモン報道をテーマにしています。「あのメディアの持ち上げ方、何ですか。自分の持ち上げ方を棚にあげて、改革まで私の責任と批判している」という小泉首相の発言や、「マスコミはどうですか。すごく持ち上げたじゃないですか」という公明党幹部の言葉を取り上げ、〈目に余るような持ち上げ方をしたかどうかは、それぞれのメディアが自らの責任で省みることだ〉と主張しています。

この主張は、基本的には正論だと思います。独立した言論機関であるメディアが、国や政治家によってではなく自分たちで自社の報道について検証し、反省すべき点があれば率直に反省するというのは、独立性を保つためにも大事なことだと思います。

しかし問題なのは、〈自らの責任で省みる〉というメディアの能力は現在、多くの人々にほとんど信用されていない(そして、新聞人がそれをよくわかっていない)ことです。朝日の虚偽メモ報道ぐらいの問題になると、新聞社もさすがに自省の姿勢を見せますが、そうした大問題を除いては、自らの報道を積極的に検証したり、ミスや行き過ぎ、はしゃぎ過ぎなどについて率直に認めたりするようなことは、ほとんどないように思います。そんな状況で、〈メディアが自らの責任で省みることだ〉と言ってみたところで、その言葉を聞かされるほうは白けるだけです。

朝日のホリエモンに関する報道ぶりについても、近鉄買収騒動のときの紙面からみておきましょう。(記事はすべて04年。肩書きは当時)

・〈買収が実現すれば12球団体制が維持される。あるパ・リーグ球団首脳からは「いい流れができそうだ」との声も聞かれた。近鉄に詳しいスポーツライターの佐野正幸さんは「古い人からの批判もあるだろうが、インターネット関連企業は時代に合っている」。オリックス・ブルーウェーブ応援団長の河内毅さんも「両方のファンが丸く収まる」と買収話を歓迎した〉(6月30日付夕刊第2社会面。堀江社長の動きに反対する声は、球団オーナーたちの意見しか紹介されず)

・〈大阪ドーム 堀江コール〉〈ライブドア社長観戦 ファン「近鉄救って」〉(7月5日付朝刊第1社会面の見出し。記事には〈ファンとともに、両手を上げて応援するライブドアの堀江社長〉の大きな写真がついており、「救世主」「歓迎」などと書かれたカードも入るようにトリミング。記事には堀江社長を非難する声はなし)

・〈野球が社会から見捨てられているわけでもない。ライブドアに続いて、同じインターネット業界の楽天が新球団設立に手をあげた。こうした動きは、少なくとも三つの点で可能性を広げるものだ〉(9月20日付社説。3つの理由のうちのひとつには、〈野球とインターネットの連動〉を挙げ、〈たとえばチケットを楽天やライブドアのサイトで買う〉などと具体例を描いている)

・〈参入に名乗りをあげた2社のうち、規模や信用度からいえば楽天の方が上だろう。しかしライブドアが早い段階で手をあげ、それがきっかけになって球界の縮小が避けられたことを忘れてはならない。「本拠地は仙台」と言ったのもライブドアが先だった〉(9月24日付社説)

・〈変われプロ野球〉〈シンポジウム「新球団に期待する」〉(10月20日付朝刊スポーツ面。朝日新聞が主催したシンポジウムを全面で紹介。堀江社長とファンらの一問一答の様子を、堀江社長の大きな写真付きで報告)

・〈アダルトサイトの問題を指摘するのはいいけれど、ことさら問題にするのはいかがなものか。ライブドアは、球界再編の動きをいち早く起こした。そういう全体的な本筋の評価も必要では〉〈客観的には楽天が有利かもしれないが、参入後により大きな風穴を開けられるのはライブドアの方では〉(11月1日付夕刊第2社会面。新規参入球団の決定が翌日に迫ったことを伝える記事の、坂上康博・福島大教授と漫画家やくみつるさんのコメント。楽天を支持するコメントはなし)

このように、朝日がホリエモンに肩入れした報道をしていたのは、疑いの余地がないところです。

堀江社長に証券取引法違反の容疑がかけられるとは、当時は予想もしなかったのだと思います。そのことをもって、見る目がないとか、分析力がないなどと新聞を責めるのは、酷なように思います。

ただ、堀江社長らライブドア幹部が逮捕された現在、堀江容疑者をめぐる報道に読者が違和感を覚えているのは事実です。新聞は結果からみれば、不法行為をしていたとされる会社社長にスポットをあて続け、あるときは利用し、あるときは持ち上げてきたはずです。そのことに対してどう思うのか、新聞は読者に説明を負っているように思います。

メディアだって持ち上げたんだから、人のことを批判する資格はない、といった小泉首相ら政治家の主張が問題外なのは、言うまでもありません。新聞は、与党や首相らの責任や認識をどんどん問うべきです。

しかし、これまでの自らの報道を検証し、なんらかの見解を読者に明らかにすることが求められていることも、新聞は忘れてはならないと思います。
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by tmreij | 2006-01-29 17:18 | 本紙