2005年 12月 13日 ( 1 )

「手術ミス」と断定する根拠を示すべきだ

東京女子医大病院で心臓手術を受けた小学生が死亡し、医師が業務上過失致死罪に問われた裁判で、一審の無罪判決を不服として、検察が控訴しました。きょう(2005年12月13日)の朝日新聞朝刊は第3社会面で、〈心臓手術ミス事件 東京地検が控訴〉という見出しで、ごく簡単にこのことを伝えています。

この日の記事もそうなのですが、一審の東京地裁判決を報じた記事(12月1日付朝刊)でも、朝日は他の全国紙とは違う点があります。それは、小学生の死亡を〈手術ミス〉と位置づけていることです。

きょうの記事は、〈東京女子医科大病院の心臓手術ミス事件で……〉と始まっていますし、1日の記事の書き出しも、〈東京女子医科大病院(東京都新宿区)で群馬県高崎市の小学6年、平柳明香さん(当時12)が心臓手術のミスで死亡した事故で……〉となっています。小学生が死亡したのは手術ミスが原因だったと、断定しているわけです。

実際、医療過誤(ミス)は全国でしょっちゅう起きています。手術で子どもが死ぬこともありますし、子を失った両親のやり切れ無い思いや憤りは、とてつもなく大きいでしょう。一般市民に比べ圧倒的な専門知識をもつ大病院の医師は、患者(の親族)から見れば「権威」で「強者」です。また、情報開示については、医療機関は一般的に遅れているといえるでしょう。

こうした状況を考えれば、新聞が遺族側に立ち、医師がミスをしたと断じたくなる気持ちは理解できます。

しかし一審判決は、人口心肺装置に欠陥があり、それが死亡につながったと認定しましたが、医師に落ち度があったとは結論づけませんでした。この判決から判断すれば、〈手術ミス〉で小学生が死亡したという朝日の断定は、行き過ぎと言わざるを得ないように思います。

ちなみに、他紙のきょうの記事には、朝日のような位置づけは見当たりません。毎日は〈東京女子医大病院で01年、群馬県高崎市の小学6年生、平柳明香さん(当時12歳)が心臓手術の際に死亡し、同病院元助手の佐藤一樹被告(42)が業務上過失致死罪に問われた事故で……〉、読売は〈東京女子医大病院で2001年、心臓手術を受けた平柳明香さん(当時12歳)が死亡した事件で……〉と始まっていて、ともに「ミス」だったとは決めつけていません。このことは、1日の判決記事でも同じです。

朝日は、確固とした理由があって、〈手術ミス〉という言葉を繰り返しているのかもしれません。それならそれでよいのですが、その場合は、読者にきちんと理由を説明すべきです。

もし、心情的な理由で〈手術ミス〉とし続けているのであれば、やはり問題だと思います。被害者、弱者といった立場の人々の気持ちをおもんばかることは新聞として大事ですが、それよりもさらに、事実に忠実であることの方が大切なはずです。

今回の小学生の死亡については、当事者間の説明に食い違いがあるため、裁判で事実認定されたことを事実とみなすしかありません。そして、事実の前では、必要であれば心を鬼にしてでも、その事実に基づいて記事を書くべきです。

仮に朝日が、裁判で認定されたこと以外のことを事実とみていて、それゆえ〈手術ミス〉と書き続けているのであれば、その内容と根拠をはっきりと読者に示す必要があります。
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by tmreij | 2005-12-13 23:57 | 本紙