賞味期限が切れているのに、切れていないかのようにして冷凍イクラを売ったとされる会社が、農林水産省から厳重注意を受けました。きょう(2006年4月19日)の全国紙各紙朝刊は、この話題を社会面で記事にしています。
各紙によると、この会社は、「ヤマト運輸」とインターネット販売業「アセットアルカディア」。2社は、〈ラベルを張り替え、賞味期限を最大5カ月超えた食品〉を、〈40都道府県の顧客に264個を販売した〉(ともに毎日)とされています。
食品を販売する会社が賞味期限を偽って冷凍イクラを販売するのは、マンションを販売する会社が耐震強度を偽って家を販売するのと、根っこではあまり変わらないように思うのですが、この日は各紙とも2、3段見出しで、扱いとしては、耐震強度偽装よりはだいぶ地味です。
それはおそらく、改ざん行為の影響を考えてのことでしょう。マンションの耐震強度を改ざんした場合、地震による倒壊などで多数の死者が出る可能性があります。入居者は、引っ越さなければならず、経済的負担も大変です。
一方、賞味期限の改ざんの場合は、多数の死者が出る可能性は……あれれ、ゼロとはいえないんじゃないでしょうか。食中毒だって、命取りになることはあるはずです。重い食あたりなどで入院が必要になれば、仕事を休まねばならず、経済的負担も大変でしょう。
「厳重注意」という農水省のぬる過ぎる対応に引っぱられると、なんとなく軽微な問題のように思えますが、実は結構ひどい事案のような気がします。口から取り入れるものについて情報が「偽装」され、それによって健康被害が出たかもしれないわけですから、深刻な問題であってもいいように思います。
ところが、各紙の記事からは、その深刻さがちっとも伝わってきません。その原因は、見出しに迫力がないからではなく、買った人にどんな影響があるのかという記述が、まったくといっていいほどないからだと思います。
朝日、読売の記事に出てくる主語は、農水省や会社ばかり。客、購入者、消費者の立場で今回の事案をみるという態度が、まったく感じられません。毎日だけがわずかに、〈健康被害は確認されていない〉という2行を入れ、体への影響について触れています。
健康被害が確認されていないのであれば、人体への影響など書くに値しない、という見解もあるかもしれません。しかしそれは、かなり役所的、記者クラブ的な発想に引きずられた考えではないでしょうか。もし今回の冷凍イクラを買って食べていたら、どんな被害があり得た(あり得る)のかというのは、読者にとっては関心が高いように思います。読者は、農水省の役人やヤマト運輸の関係者にはなり得ませんが、冷凍イクラの消費者にはなり得るのです。
新聞は、「死者が出ていないから、この交通事故は記事にしなくていい(または大きく報じなくていい)」的な発想で、記事の扱いや書き込み具合を判断するのではなく、その事案が読者に及ぼし得る影響を、読者の立場でよく考えて、記事を書くべきだと思います。
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読売の見出し〈賞味期限張り替え イクラ何でもひどい〉は、なかなか秀逸だと思います。いかにも問題を軽視している雰囲気も伝わってきますが。