「可能性が高い」と「証明された」は一緒か

韓国から北朝鮮に拉致された男性と、横田めぐみさんの娘が、父子である可能性が高いと政府が発表しました。きょう(2006年4月11日)の全国紙夕刊は各紙、この話題を1面トップと社会面で報じています(※)。

韓国人拉致被害者がめぐみさんの娘の父親ということになれば、すなわち、めぐみさんの夫は韓国人拉致被害者ということになります。そうした話は少し前から出ていましたが、日本政府がDNA鑑定という科学的根拠をもとに可能性が高いとしたのは初めてです。大きなニュースですので、各紙そろって、〈「夫」は拉致韓国人〉(朝日)、〈めぐみさん夫は韓国人〉(毎日)、〈めぐみさん夫 拉致韓国人〉(読売)と大見出しを掲げるのも、わかるような気がします。

しかし、記事を読んでいくと、危なっかしいけど大丈夫なの、という感じを覚えます。特に読売と毎日の紙面からは、冷静さを失って興奮し、暴走している印象を受けるのです。

原因のひとつは、強引な言い換えです。

読売の1面本記は、〈横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者の金英男さんである可能性が高いとするDNA鑑定の結果を(政府が)まとめた〉と始まります。これに続く文章でも、〈金英男さんとキム・へギョンさんは親子関係にある可能性が高いことがわかった〉と書いています。

それが社会面になると突然、〈めぐみさんの娘キム・へギョンさん(18)との親子関係が、日本側のDNA鑑定で証明された韓国人拉致被害者の金英男さん……〉となっています。〈可能性が高い〉とされたはずの仮説が、ページを進めるうちに、〈証明された〉ことになっているのです。

可能性が高いのと、証明されたというのは、果たして同じにしちゃっていいんでしょうか。

DNA鑑定は、かなり確度の高い結論を出せるようです。でも例えば、人物の特定においては、指紋ほどの限定力はないと聞きます(つまり、同じようなDNAの型をもつ人が複数人いるらしい)。今回の鑑定がどんなものなのか、詳しく書いていないのでよくわかりませんが、決定力に欠けるDNAというものを使って調べた結果、〈可能性が高い〉とされたものを、新聞社が勝手に〈証明された〉にグレードアップするのは、問題ないんでしょうか。

こうした言い換えは、毎日もしています。1面では、〈父子関係にある可能性が極めて高いDNA鑑定結果〉〈政府は2人が父子にほぼ間違いないと結論づけ〉などと、疑いの余地を残しておきながら、社会面に移ると、〈めぐみさんの夫は、韓国人拉致被害者だった——〉〈(日本政府はめぐみさんの夫が)金英男さんと結論づけた〉と断定しています。

他方、感情をあらわにすることで気分が少しスーッとする、といった程度の効果しかないような言葉使いも、どうかと思います。

読売の社会面は、〈またも嘘 憤る家族〉という大見出しを掲載。前文でも、〈北朝鮮側の嘘がまた一つ明らかになった〉と決めつけています。

これは、北朝鮮がこれまで、めぐみさんの夫は〈「自国の特殊機関勤務員」と説明してきた〉ことに照らし、なんだ実は韓国人拉致被害者じゃないか、この大ウソつきめ! と言いたいのでしょう。

この部分については、前述のとおり、〈可能性が高い〉ではなく、〈証明された〉という前提に立って話を進めているところが、まず気になります。さらに、仮にめぐみさんの夫が韓国人拉致被害者だとしても、長年にわたって北朝鮮に住み、特殊機関に勤めていたであろうことを考えれば、北朝鮮がその拉致被害者について「自国の特殊機関勤務員」だと強弁することは、フェアとは言えないでしょうが、可能なように思います。

こうした状況で、新聞が「大ウソつき!」と声を張り上げることが、拉致被害者の救済に効果的かというと、大いに疑問です。クロだと詰め切れていないときに、「お前はクロだ!」と感情的に迫っても、相手は態度を硬化させこそすれ、軟化することはないように思います。

新聞にとって、拉致被害者家族の怒りの声を伝えることも、その怒りに共感することも、大事なことだと思います。しかし、家族と一緒になって感情を噴出させることは、新聞の役割ではありません。とくに今回のように、感情を優先して事実を犠牲にしているかのような報道は、それがいかに国家的な問題であろうと、決してしてはいけないことだと思います。

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(※)各紙とも、記事は発表前に書いているため、「これから発表する」という書き方になっています。
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by tmreij | 2006-04-12 02:38 | 本紙


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