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NYタイムズは読売について、もっと違うことも書いている

きょう(2006年2月14日)の読売新聞朝刊は、同紙の渡辺恒雄主筆(読売新聞グループ本社会長)が米紙ニューヨーク・タイムズ(11日付)で紹介されたと、第3社会面で報じています。

〈NYタイムズ紙 本社主筆を紹介〉というベタ見出しの小さな記事ですが、これがなんとも、報道機関らしくない内容になっています。ひとことで言うと、「いいとこどり」なのです。

記事中、NYタイムズの報道内容について触れているのは、以下の2カ所です。

〈渡辺主筆が、太平洋戦争に突き進んだ日本の指導者らの責任を日本が自ら検証する必要性を唱えていることや、小泉首相の靖国神社参拝を批判していることを紹介。その背景には、戦争を知らない世代の中で高まるナショナリズムやアジアの近隣諸国との関係悪化に対する懸念があるとの見方を示した〉

〈読売新聞が昨年夏から「戦争責任」を検証する連載記事の掲載を始めたことや、靖国神社に代わる無宗教の国立追悼施設の建立を社説で訴えたことも紹介した〉

これを読むと、NYタイムズは読売のことを、反国家主義的でハト派な新聞だと誤解して報じたのではないかと、心配になってきます。

そこで、NYタイムズの記事をみてみると、なんのことはありません。ちゃんと、読売のことを理解しているであろうことを示す、次のような記述が出ています。

〈渡辺氏は自らの新聞でこつこつと、ナショナリズムが高まる土壌を作り上げてきた〉〈小泉首相の靖国神社参拝を非難する社説を昨年6月に掲載したのは、読売にとっては180度方向転換をしたようなものだった〉〈読売は、いまの日本でわき起こっている勇ましいナショナリズムを盛り上げる大きな力となった〉(このブログの筆者訳。NYタイムズの記事に関しては以下も同じ)

どうも、読売はこうした記述については、完全に無視しているようなのです。

もし、今回読売が掲載したのが純粋な「広告」だったら、NYタイムズに何が書いてあろうと、自社のイメージアップに役立つであろう部分だけをつまみ出して読者に伝えても、まあいいでしょう。新聞社としてはかなりカッコ悪い行為だとは思いますが、権威ある米紙に取り上げられたことが嬉しく、それを何とか利用しようとがんばってるんだな、かわいいな、とほほ笑ましい気持ちで見守ることもできます。

しかしきょうのように、広告ではなく「記事」という形態でNYタイムズの記事を紹介しているとなると、話は別です。一人前の報道機関であれば、自社にとって好ましい記述だけでなく、好ましくない内容もちゃんと報じて当然のはずです。もし自分たちには納得いかない評価をされていたとしても、そうした記述があることも読者に知らせ、そのうえで反論なり解説なりすべきです。

ところで、今回のNYタイムズは、以下のような記述や渡辺氏の言葉(約2時間にわたってインタビューをしたそうです)も、記事に盛り込んでいます。

・小泉首相について——〈「小泉という人物は、歴史も哲学も知らず、勉強もせず、まったく教養がない。だから『靖国に参拝して何が悪いのか』『靖国を批判するのは中国と朝鮮だけだ』といったばかなことを言う。彼の無知が原因なのだ」〉

・神風特攻隊について——〈「彼らが勇気と喜びに満ちて『天皇陛下万歳!』と声を張り上げながら飛び立ったなんて大うそだ」と渡辺氏は怒りを込めて話した。「彼らは屠殺場のヒツジだった。みんなうなだれ、よろよろしていた。立ち上がれずに、整備兵たちに飛行機に押し込まれた人もいたのだ」〉

・自らについて——〈渡辺氏は自らの(政界などへの)影響力が弱くなっているのではないかと気にしている〉〈「今年で80歳になる」と渡辺氏は言った。「残された時間はあまりない」〉

小泉首相と特攻隊についての発言は非常に参考になると思いますが、自らについては意識過剰なのが気になります。自意識の極めつけは、記事の最後に使われているこの言葉です。

〈「私は、日本のすべてを変えられると思っている」〉

こんなことを言う人をトップに掲げている新聞にあまり期待をしてはいけないのかもしれませんが、広告ではなく記事を書くときには、もう少し客観性とバランスに気を配り、読者に物事(それが自社への批判であっても)を正確に伝える努力をしてほしいと思います。
by tmreij | 2006-02-14 23:21 | 本紙


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