トリノ五輪(来年2月)に出場する女子フィギュアスケートの日本代表選手3人が決まりました。きょう(2005年12月26日)の全国紙各紙朝刊は、スポーツ面などでこの話題を大きく取り上げています。
代表を選出するにあたって、日本スケート連盟は今回、初めてポイント制を導入しました。今季だけでなく、昨季の成績ポイントも加点して代表選考をすすめ、安藤美姫、村主章枝、荒川静香の3選手に決めたわけです。
このポイント制による選考結果について、読売と毎日はまるっきり異なった見解を載せています。
〈現戦力で最強の陣容が整ったと言える〉と高く評価したのは読売です。スポーツ面の署名記事で、〈連盟には「勝てる選手を出す」という隠れた基準もあったのだが、今回のポイント上位3人は、この点もクリアに近い〉と支持し、さらに〈荒川が言うように「タイプが違って、レベルが高い3人」がそろった〉と代表選手を持ち上げています。
これに対し毎日は、同じくスポーツ面の署名記事で、〈最強の3人を選んだかというと疑問が残る〉と主張。五輪代表の顔ぶれに批判的な見方を示し、〈現時点では、試合ごとに急成長している中野(友加里)や、復調した恩田(美栄)の方が、不調の安藤より力が上だ〉と、その理由を挙げています。
このように、新聞によって評価や意見が違うのは、結構なことだと思います。事実関係が新聞によって異なるのは困りますが、何らかの事実をどう見るかというのは人によってばらばらで当然ですから、新聞が違えば見解が違うのは自然なことです。読者にとっても、幅広い意見に触れた方が、自分の考えをまとめるうえで役に立つと思います。
ただ、きょうの読売の記事が読者にとってよい参考になっているかというと、そうはいえないと思います。どうも、自らの主張に都合の悪いデータを省いて、論を展開しているように見受けられるからです。
例えば、代表の座を逃した中野選手は、〈今季、安藤にはNHK杯、GPファイナル、全日本選手権と直接対決ではすべて勝利し、今季の獲得ポイントだけを見れば、五輪代表候補の中ではトップ〉(朝日)でした。スケーターとしての勢いと、今季に限った実力でみれば、安藤選手よりも中野選手の方が上だといえるわけです。
毎日の記事は、このことにちゃんと注目しています。記事中、〈ポイント4位の中野は今季、安藤にはNHK杯、GPファイナル、全日本と3戦すべて勝利し、今季の獲得ポイントは最多〉と紹介しています。
ところが読売には、この点に関する記述は見当たりません。
また、読売の署名記事は、〈自らの査定方法を信じるなら、獲得ポイント1位の安藤を選ぶのは当然〉と書いています。では、日本スケート連盟が今回のポイント制による選出方法を信じているかというと、その点についての説明はありません。〈安藤を選ぶのは当然〉と言い放つだけで、その前提となる〈自らの査定方法を信じるなら〉という部分についての検証がないのです。
なぜないのかは、朝日と毎日を読むとわかります。朝日は〈(連盟の)小野(長久)フィギュア部長は「現行のポイント制には問題もある」と話した〉と記していますし、毎日も〈小野部長が「ポイント制には問題もある」と認める〉と伝えています。連盟には、査定方法を信じない声が出ているのです。
このように読売の記事は、今回の選考について読者が考えるうえで大事なデータを落としています。〈最強の陣容が整ったと言える〉という結論に行き着くため、わざと言及しなかったのではないかという気もします。
新聞が個性を出して意見を表明するのはよいことだと思います。しかしその際、自らの主張に合わないからといって、重要なデータを省くべきではありません。そうした行為は、読者に対して不誠実ですし、読者をミスリードします。自論に不都合な事実もちゃんと紹介したうえで、それを上回るデータや理屈で読者に向き合うべきだと思います。
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この日の朝日は、読売や毎日のように明確には意見を表明していません。した方がよいと思うのですが。